日本政府、50年国債の発行を検討 その影響を検証してみた

つい先ほど、日本政府が50年国債の発行を検討しているというヘッドラインが流れました。Wall Street Journalのスクープのようです。

すぐさま各方面からこの報道を否定するコメントが出てきています。

50年国債が発行された場合の影響を考えてみました。

国債の価格が下落する

債券の基本中の基本ですが、年限が長い債券ほど価格の変動性が高い、つまりリスクが高くなります。

より長い国債が発行されるということは、国債全体の発行額が一定だとすると、より短い国債の発行額が減額されて、その分が50年債の発行に回されることになるわけです。

となると市場にはより大きなリスクが供給されるわけなので、市場参加者のリスク許容度が変わらないとすれば、国債の価格は下落すると思われます。

イールドカーブがスティープ化する

国債の年限ごとの利回りを線でつないで形成されるイールドカーブ(利回り曲線)。

50年債が発行されると上記の理由から国債の価格が下落します。さらに年限別に考えれば超長期の発行が増えて、より短い年限の発行が減るので、超長期ゾーンの需給が緩みます。となると、イールドカーブは短いゾーンよりも長いゾーンの利回りが上昇する、つまりはスティープ化するわけです。

50年債を発行する意図

さて、どうして50年債を発行したいのでしょうか。

そもそも国債が多様な年限を発行するのは、よりスムーズに国債の発行を消化するために、国債を買ってくれる投資家の事情を考慮してのことです。

まず、50年債の発行を手を叩いて喜ぶのが超長期債の主な買い手である生命保険会社や年金など、超長期の資金運用を行う投資家達です。

簡単な例を示すと、生保はその名の通りお客さんに生命保険を販売して、入ってくるお金を運用しています。そのお金は性質的に保険加入者が死ぬまで返さなくていいお金、ということになります。そうした長期で調達した資金は短期で運用するより、同じように長期で運用した方が都合がよいため、生保は好んで長い国債を買います。

現在、もっとも期間の長い国債は40年債です。人の寿命に比べればやや短い期間になります。25歳で生命保険に入って、80歳まで生きたら55年間生命保険に加入している計算になります。この期間に応じて運用するとすると、40年債でも短いということになります。

50年債の発行で直接的に恩恵を受けるのは生保や年金ということになりますが、間接的な影響を受けるのが銀行です。

銀行のビジネスモデルは短く調達して、長く貸す、というものです。いつ引き出されるかわからない普通預金、ないしは数年で解約される定期預金という短いお金を調達して、住宅ローン等の長いお金を貸し付けるわけです。短い金利がより低く抑えられて、長い金利がより高く維持されれば銀行にとってハッピーな状況になるってことです。

結論:50年債の発行は誰にとってもハッピー

50年債が発行されるとより長い国債が欲しい生保、年金が喜び、長短金利差の拡大を望む銀行も喜ぶ名案です。

特に日銀がマイナス金利を導入したことによる銀行の収益圧迫が問題視されてきていましたが、短期金利が低く抑えられたまま、長期の金利が上昇するなんてことになればこうした問題も一発で解決です。つまり日銀がマイナス金利を導入しやすくなった、とも言えます。

50年債の発行が本当なら、金曜日に日銀が追加緩和を打ち出す可能性も一気に上がると思われます。

番外編:50年債発行による株、為替への影響

円債市場における影響だけを述べてきましたが、ここで他のマーケットについても見ておきます。

先に述べたように50年発行はマイナス金利導入によって懸念されていた銀行収益への影響を一気に解決しうる策です。なので銀行株主導で株価にとっては上昇要因になりそうです。

金利上昇で企業の調達環境が悪化するという懸念もあるかもしれませんが、そもそも企業に調達ニーズがない、と言われて久しいですし、そもそもマイナス金利を導入してるうちは短いところの金利は引き続き低く抑えられそうなので、その辺の影響は小さそうです。

為替は株の上昇を受けて円安が進行しそうです。

また、影響はほぼないと思いますが、50年債の発行は日本政府の調達コストを上昇させるので、一応円が売られる材料ではあります。

というわけで、50年債発行によるマーケットインパクトは円安株高債券安となりそうです。


2016年7月27日 日本政府、50年国債の発行を検討 その影響を検証してみた はコメントを受け付けていません。 トピックス